当世労務・年金事情
定年の引き上げ、継続雇用制度の導入等の義務化について
  1. 高年齢者雇用確保措置の実施義務(法第9条第1項)
     定年(65歳未満)の定めをしている事業主は、その雇用する高齢者の65歳までの安定した費用を確保するため、次に掲げる措置のいずれかを講じる。
    (1)当該定年の引き上げ
    (2)継続雇用制度の導入
    (3)当該定年の定めの廃止
      →措置の詳細

     この措置は2006年4月1日から義務付けられます。この3つの措置のなかで、現在多く選択されているのが(2)の継続雇用制度であり、そのなかでも、いったん雇用関係を切ったうえで、改めて契約を結ぶという再雇用制度を適用している企業が圧倒的に多いようです。ただし、この継続雇用制度を導入した場合、就業規則の「退職事項に関する変更届」を労働基準監督署に提出することが必須条件となります。



  2. 継続雇用制度対象となる高年齢者に係る規準の制定(法第9条第2項)
     事業主は労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においては、その労働組合、そのような労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定(労使協定)により、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、1の(2)(継続雇用制度)に掲げる措置に講じたものとみなす。

     この基準のポイントとしては、「具体性」と「客観性」が揚げられています。具体性とは、意欲、能力などをできるかぎり具体的に測れるものであること、また客観性とは、上司の主観的な選択ではなく、基準に該当するかどうかを労働者自身が客観的に予測できるものであるということです。その辺が不透明でありますと、労使紛争も招きかねないので、この具体性と客観性という部分はかなり重要になります。



  3. 労使の基準が調わない場合における就業規則による基準の設定(法附則第5条)
     高年齢者雇用確保措置を講ずる事業主は、施行の日から起算して3年(中小企業の場合は5年)間、平成21年3月31日(中小企業の場合は平成23年3月31日)までの間は、労働組合等との協議が調わないときは、就業規則その他これに準ずるものにより、継続雇用制度の対象とな高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入できる。

     この規定は、選別基準について労使間で協議をしたが、労使協定の締結ができなかった場合の経過措置ということであくまでも特例という位置づけで設けてありますので、使用者側が一方的に内容を労働者に提示したものなどはこれに該当しません。



  4. 高年齢者雇用確保措置導入に係る年齢の段階的引き上げ(法附則第4条)
     高年齢者の雇用確保措置導入義務に係る年齢は年金(定額部分)の支給開始年齢の引き上げスケジュールに合わせ、平成25年4月1日までの次のとおり段階的に引き上げていくものとする。
    ・平成18年4月1日から平成19年3月31日まで 62才
    ・平成19年4月1日から平成22年3月31日まで 63才
    ・平成22年4月1日から平成25年3月31日まで 64才
    ・平成25年4月1日以降               65才

     具体的な参考例で見ますと、誕生日を定年退職日とする企業の場合、平成18年度においては企業の定年年齢より、例えば61歳定年制を敷いている企業であれば、高年齢者雇用確保措置によって62歳まで継続雇用してくださいという形になります。したがって、62歳定年制を敷いている企業の場合は、そのまま62左腕定年退職、63歳以上定年制を敷いている企業の場合は、当該年齢で定年退職ということになります。



    高年齢者雇用を促進するために継続雇用定着促進助成金があります。
    →詳細
子の看護休暇制度
 小学校就学前の子を養育する労働者は、申し出ることにより、1年に5日まで、病気・けがをした子の看護のために、休暇を取得することができます。

<改正ポイント>
申出は口頭でも認められます。
・事業主は、業務の繁忙等を理由に、子の看護休暇の申出を拒むことはできません。
 ただし、勤続6か月未満の労働者及び週の所定労働日数が2日以下の労働者については、労使協定の締結により対象外とすることができます。この他の労働者(例えば配偶者が専業主婦である労働者等)を対象外とすることはできません。
・子供の人数に係らず年5日の休暇となります。
・看護休暇の時期変更権はできません。
・看護休暇の給与については無給として取り扱って構いません。

解雇に関する改正
 平成16年1月1日施行の法改正により「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」という規定が新しく設けられました。いわゆる「解雇権濫用法理」が初めて労働基準法に明記されたことになります。「客観的に合理的な理由」とは、一般的には、能力の著しい低下、勤務態度の不良、業務命令や規律の違反、業務縮小や倒産などの経営上の理由などが考えられます。
 例えば、業績悪化などによる人員整理のための解雇(整理解雇)を行う場合、解雇するにあたっては次の四つの要件を全て満たしていることが必要だとされています。
  1. 業務上において人員整理の必要があること
  2. 使用者が解雇を回避する努力を行ったこと
  3. 解雇される者の選定に合理性があること
  4. 解雇に関しての説明・協議など、必要な手続きを踏んでいること


 解雇をめぐるトラブルの大きな原因の一つに、解雇の理由が事前にははっきりと労働者に示されていないことがあります。
 これまでも、退職時の証明として「労働者が退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあってはその理由を含む。)について証明書を請求した場合には、使用者は遅延なくこれを交付しなければならない。」としていましたが、更に改正労働基準法では、「解雇理由の明示」が新設され、「労働者が当該解雇の理由について証明書を請求した場合には、使用者は、遅延なくこれを交付しなければならない」としています。つまり、どんな解雇理由であろうと、労働者本人の請求があった場合は解雇理由の証明書を交付する必要があることになります。

 また、就業規則の上で労使双方が解雇についての認識を確認しておくという観点から、就業規則に、「退社に関する事項」として「解雇の事由」を記載することが必要になっています。

解雇予告手当
 労働基準法では、突然の解雇によって労働者の生活が困窮するのを緩和するために、労働者を解雇する場合には、少なくとも30日前までに解雇の予告をすることを義務づけています。口頭での予告でも可能ですが、後々のトラブルの原因になりますので、文章で予告するほうがよいでしょう。
 なお、30日前までに解雇の予告をせずに労働者を解雇する場合には、使用者は予告に代えて30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。これが「解雇予告手当」です。解雇予告手当は解雇予告の代わりになるものですので、少なくとも解雇日までには労働者に支払うべきものです。
 解雇予告手当は、予告した日の翌日から解雇する日までの日数分だけ短縮することが認められており、例えば6月1日に使用者から労働者に対して6月20日付けで解雇する旨を言い渡した場合には、解雇日の20日前に解雇を予告したことになりますので、労働者には少なくとも10日分の平均賃金を払えばよいことになります。
 一日分の平均賃金は、使用者が解雇の予告した日前(賃金締め切り日がある場合は直前の締切日以前)3ヵ月間の賃金の総額(通勤手当、諸手当含)を、その期間の総日数で割ったものです。
つまり 3ヵ月間の賃金総額÷暦日数=平均賃金 となります。


例)Aさんの30日分の解雇予告手当の計算
  (4月、5月、6月の3ヶ月間の賃金から計算する場合)
月(暦日数) 4月(31日) 5月(30日) 6月(31日)
基本給 200,000 200,000 200,000
通勤手当 8,730 8,730 8,730
時間外手当 3,800 7,500 5,900
賃金総額 212,530 216,230 214,630
*給与は20日〆の25日払

212,530+216,230+214,630=643,390円 (賃金総額合計)

642,390÷92日(暦日数合計)=6993.36円 (平均賃金)
*小数点第3位以下は切り捨て

6982.5×30日=209800.8円 (30日分の解雇予告手当)
*小数点第2位四捨五入


 なお、退職手当とはその性格が異なるので、退職手当を支給することによって解雇予告手当の支払い義務は免除されません。また、解雇予告手当は退職手当と同じく所得税法上は「退職所得」として扱われます。したがって、退職手当も支払った場合は、解雇予告手当として合算して課税処理を行う必要があります。

 また、次の場合には、解雇予告や解雇予告手当の適用は除外されます。

  1.  天変事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となったり、労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合で、労働基準監督署長の認定を受けた場合
  2.  日々雇い入れられる労働者や二ヶ月以内の期限を定めて使用される労働者などを解雇する場合(一定期間を超えて引き続き使用されるようになった場合を除く)
60歳代前半の在職老齢年金の見直しについて

  1. 平成17年4月からの在職老齢年金(60歳〜64歳)
     総報酬月額相当額と年金月額によって調整し、減額された年金を支給します。
     総報酬月額相当額とは、「標準報酬月額と被保険者である月以前1年間の標準賞与額÷12の合計額」です。ボーナスが支払われたり、あるいはボーナスがなくなる都度、在職老齢年金額が変更になります。

  2. 厚生年金基金加入期間のある在職老齢年金(60歳〜64歳)の計算
     厚生年金基金に加入期間のある場合の在職老齢年金は、厚生年金基金に加入していなかったものとして年金額を計算し、その年金月額と総報酬月額相当額によって調整します。

  3. 在職老齢年金と高年齢雇用継続給付との調整
     雇用保険の高年齢雇用継続給付と在職老齢年金との調整は、平成10年4月から原則として標準報酬月額の10%が支給停止になっていましたが、平成15年4月に雇用保険法が改正されましたので、原則として標準報酬月額の6%が支給停止となります。
    高年齢雇用継続給付の詳細はこちら

  4. 手続き等について
     60歳になったら裁定請求手続きをしておき、高年齢雇用継続給付をもらった場合には、「老齢厚生・退職共済年金受給権者支給停止事由該当届」(583号)に「高年齢雇用継続給付支給決定通知書」のコピーを添えて社会保険事務所に提出します。

  5. (在職)停止コード(年金見込額照会回答票より)
     これは在職老齢年金の停止コードで、考えられる主なものは次のとおりです。
     000=全額支給。301=基金なし・一部支給(厚生年金基金の加入がなく、国の年金のみの加入者で60歳過ぎに在職老齢年金がいくらか出る場合)。311=基金なし・全額停止。501=基金あり・一部支給。511=基金あり・全額停止(国及び基金が全額停止)。514=基金あり・全額停止(国が全額停止で基金は支給あり)。

  6. 在職老齢年金・高年齢雇用継続給付の活用
     これに関する相談の中で多いのが、60歳以降に従業員を伴う場合どの位の賃金にしたらいいか、最低賃金はいくらくらいか、だと思います。大まかに申しますと、継続給付が最大15%出るためには賃金が61%より下がらなければいけませんから、60歳以降の賃金としては、60歳以前の6割、継続給付の最大が出る限度の60%前後にしておけば妥当ではないかというのが、一つ、考えられる数字だと言えます。
 なお、老齢年金の支給開始年齢は引上げが始まっており、それに伴い平成18年からは段階的に雇用確保の年齢を引上げる必要があります。
→老齢厚生年金の支給開始年齢引き上げと雇用確保のスケジュール
熟年離婚が多い最近、離婚した場合の夫婦それぞれの年金支給額について

 現在の年金制度は世帯単位で年金を受け取ることを前提としているため、例えば夫が会社員、妻が専業主婦の場合、高齢になってから夫婦が離婚するとその後に受け取れる年金は、夫が基礎年金(国民年金)と厚生年金の両方であるのに対して、妻は基礎年金のみとなってしまうなど、女性にとって不利な一面があります。
 こうした不合理さを解消するため、年金制度の改正において二段階で救済策が導入されることになりました。


  1. 夫婦の同意に基づく厚生年金の分割(2007年4月実施)

     離婚する際に夫婦の同意または裁判所の決定があれば、婚姻していた期間に対応する老齢厚生年金を分割して、夫婦それぞれに支給することができるようになります。2007年4月の施行後に成立した離婚を対象としますが、分割される年金は施行前の婚姻期間に納付されたものも対象とされます。
     分割の割合は原則として夫婦間での協議で決定されますが、その上限は婚姻期間中の夫婦双方の標準報酬月額の合計の2分の1です。つまり、共働きの場合は夫婦の老齢厚生年金を合算した額の2分の1、妻が専業主婦であった場合は夫の老齢厚生年金の2分の1まで分割できることになります。


  2. どちらか一方の申請に基づく厚生年金の分割(2008年4月実施)

     2008年4月以降に離婚した場合、または年金の分割が必要な事情(配偶者の所在が長期不明など)が発生した場合は、夫婦の同意または裁判所の決定がなくても、夫婦どちらか一方の申請があれば、妻(または夫)が第三号被保険者であった期間に夫(妻)が負担した厚生年金保険料は夫婦が共同して負担したものであるとみなされ、その期間についての老齢厚生年金を2分の1に分割できるようになります。
     ただし、分割の対象となるのは2008年4月以降に納付された厚生年金保険料についてのみで、それ以前の婚姻期間が対象となる老齢厚生年金の分割をしたい場合は、前述の(1)のように夫婦の同意や裁判所の決定が必要となります。

改正男女雇用機会均等法が成立

「改正男女雇用機会均等法」が6月15日、衆議院本会議で可決、成立しました。現行法の「女性」対象とした差別的取扱いの禁止を「男女双方」に拡大。また、限定的ではありますが、男女の「間接差別」も新たに禁止されます。改正法は2007年4月1日から施行されます。


改正のポイント

(1)改正男女雇用機会均等法

  1. 性別を理由とする差別的取扱いの禁止
     募集、採用、配置、昇進、教育訓練、福利厚生、定年および解雇について、性別を理由として差別的に取扱いを行なうことが禁止されます。なお、「配置」については、業務の配分や権限の付与も含まれることが明記されています。

  2. 差別禁止範囲の拡大
     1の禁止に加えて新たに、労働者の降格、職種の変更、雇用形態の変更、退職及び労働契約の更新についても、労働者の性別を理由として差別的と取扱いを行なうことが禁止されます。

  3. 間接差別の禁止
     差別的取取扱いをしてはならない事項であって、性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性および女性の比率、その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別につながるおそれがあるものとして、厚生労働省令で定めるものに該当するときは、業務遂行上特に必要である場合でなければ、その措置を講じることが出来ません。
     これは、いわゆる「間接差別」を禁止するものですが、「厚生労働省令で定めるもの」については、募集・採用において身長、体重または体力要件などをつけることで、実質的に女性または男性に対する差別につながるものなどが現在検討されています。

  4. 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等
    1.  女性労働者が妊娠し、出産し、または労働基準法の産前産後休業したことを理由とする解雇の禁止に加えて、女性労働者が労働基準法の産前休業を請求したことその他厚生労働省令で定める事由を理由とする解雇も禁止されます。また新たに、これらの事由を理由とする解雇以外の不利益取扱いも禁止されます。

    2.  妊娠中または出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、事業主が上記Iの事由を理由とする解雇でないと証明しない限り、無効とされます。

  5. セクシャル・ハラスメントに対する措置
     セクシャル・ハラスメントの対象範囲を、男女双方の労働者に拡大するとともの、事業主に対して、相談および苦情処理のために必要な体制の整備その他雇用管理上必要な措置を講じることを義務づけています。

(2)改正労働基準法

 現行法では臨時の業務を除いて女性が坑内で行なわれる業務(ずい道工事など)に就くことが禁止されていますが、改正後は、主として人力により行なわれる掘削の業務その他女性に有害なものとして厚生労働省令で定める業務以外については、業務に就かせることができます。
 ただし、妊娠中の女性および坑内業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後1年を経過しない女性は、坑内で行なわれる総ての業務に就かせてはなりません。
老齢厚生年金と失業給付との調整について

 60歳代前半にもらえる年金は「特別支給の老齢厚生年金」と言い、老齢になって働けなくなった場合の保険として生活費を支給するものです。一方、失業給付は働く意思と能力があるにもかかわらず、仕事に就けない状態にある場合の保険として生活費を支給するものです。以前は老齢厚生年金と失業給付を同時に受給することが可能でしたが、働ける状態であるにもかかわらず年金まで支給するのは本来の役割に反していると考えられるようになり、現在は同時の受給はできません。
 特別支給の老齢厚生年金はハローワークに求職の申し込みをした場合に、求職の申し込みをした月の翌月から次のいずれかに該当するに至った月まで支給が停止されます。

  1. 失業給付の基本手当の受給期間が満了した月
  2. 所定給付日数に相当する日数分の基本手当の受給が終了した日に属する月
休業等からの職場復帰支援について

 心身の健康問題で休業(休職)する労働者が増加している昨今ですが、休職者が円滑に職場に復帰し、業務が継続できるようにするためには、休業の開始から通常業務への復帰までの流れを予め就業規則等で明確にしておくことが必要です。

 以下が休職について就業規則で定める際の注意点となります。

<休職事由>
 休職事由としては出向休職、私傷病休職、公職休職、自己都合休職等があります。最近ではボランティア休職を認めている企業もあります。

<休職期間>
 休み始めにおいて、欠勤と休職を明確に分けて取り扱うことが必要です。

<休職期間の勤続年数への通算>
 出向休職等業務命令による休職は勤続年数に通算し、私傷病や公職、自己都合休職等、労働者側の理由による休職は勤続年数に通算しないのが一般的です。

<賃金の取扱い>
 欠勤期間中の賃金、休職の場合の賃金を何ヶ月支給するか、何割程度支給するかなどの取扱いは会社ごとにまちまちです。ただし、賃金を支給した場合、傷病手当金と賃金との調整が必要となる可能性があります。

<復職の規定>
 会社によっては、就業規則の中で「その事由が消滅したときに復職とする」としている場合もありますが、それでは復職がどういう手続で行なわれるか不明瞭となってしまいます。労働者自身の病気が治ったという判断で職場に戻ることが出来る可能性もありますので、この点に関しては「審査」という行為が必要ではないかと考えられます。例えば、休職者に復職するだけの能力があるかを、まず主治医の診断書で判断、診断書だけでは判断が困難な場合は会社の指定する医師(一般的には産業医)の診断書の提出を復職の条件として定めればいいでしょう。


 次に休職開始から職場復帰の流れです。

  1. 病気休業開始及び休業中のケア
    1. 労働者からの診断書(病気休業診断書)の提出
       労働者が主治医の診断書を管理監督者に提出します。この際、職場復帰の準備を計画的に行なえるよう、必要な療養期間の見込みについて明記してもらうことが望ましいです。
    2. 管理監督者、事業場内産業保険スタッフ等によるケア
       管理監督者は、診断書が提出されたことを人事管理担当者および事業場内産業保健担当者に連絡し、休業する労働者に対して、療養に専念するよう安心させると同時に休業中の事務手続き・職場復帰支援の手順について説明を行ないます。必要な場合は、労働者からの同意を得た上で主治医と連絡を取ることもあります。

  2. 主治医による職場復帰可能性の判断
     労働者から職場復帰の意思表示がされたら、事業者は職場復帰可能の診断書(復帰診断書)を提出するように指示をします。診断書には就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を含めてもらうとよいでしょう。

  3. 職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成
     事業場内産業保険担当者等を中心に職場復帰の可否について判断したうえで、職場復帰プランを作成します。

  4. 最終的な職場復帰の決定
     労働者の健康状態を最終確認し、就業上の措置等に関する意見をを主治医に作成してもらい、事業者による最終的な職場復帰の決定を行ないます。

  5. 職場復帰

  6. 職場復帰後のフォローアップ
     職場復帰後も症状の再燃・再発、新しい問題の発生等の有無の確認、勤務状況及び業務遂行能力の評価、職場復帰支援プランの実施状況の確認、治癒状況の確認、職場復帰支援プランの評価と見直し等が必要となります。

 産業医としての職場復帰の条件は、原則「1日8時間・週5日働けることと現職の復帰」を目安としています。ただ、そこまではいかない、まだ危険があると判断した場合には、リハビリ出勤(試し出勤)を検討するのもよいでしょう。
 ただし「リハビリ出勤制度」の運用は、その人事労務管理上の位置づけについて充分に検討しておく必要があります。例えば、業務の内容や労働時間、出勤日、賃金の支払いの有無、労災補償などです。また、この制度が職場の都合ではなく、労働者自身の主体的な考えや判断に基づいて運用されるよう留意しなければなりません。
 このような形で徐々に勤務できるのか、職場復帰できるのかを見ていって、順調に行けばいよいよ完全な職場復帰も検討されることとなります。
雇止めについて

 労働基準法(第14条)には、労働契約で期間を定めるときは、原則として3年を超える労働契約を締結してはならないと定められています。
 契約の形式だけに着目すれば、期間を定めた労働契約は、その期間が満了すれば特段の事情のない限り使用者の解約の意思表示を待たずに自動的に労働契約が終了し、解雇の問題は生じないものとされていますが、期間を定めた労働契約をある程度反復更新してきたなど、契約期間終了後も継続して雇用される期待を労働者に抱かせていた場合には、使用者側から契約更新を拒否すること(一般的に「雇止め」といいます)は、労働者にとっては解雇とも受け取られる厳しい扱いになることから、解雇に準じた扱いが使用者に求められることとなります。

<雇止めに関する基準とは>
 期間の定めのある労働契約でのトラブル防止のため、厚生労働省は、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平15.10.22 厚生労働省告示357号)を定めています。
 このなかで、「雇止め」に関して使用者が配慮すべき主な事項は次の通りです。

  1. 契約締結時の明示事項
    1. 使用者は、期間の定めにある労働契約の締結に際し、労働者に対して、その契約の更新の有無を明示しなければなりません。
    2. 契約を更新する場合があると明示したときは、労働者に対して、その契約を更新する場合またはしない場合の判断基準を明示しなければなりません。

    明示するべき判断基準の例
    • 契約期間満了時の業務量等により判断する
    • 労働者の勤務成績、態度により判断する
    • 労働者の能力により判断する
    • 会社の経営状況により判断する
    • 従事している業務の進捗状況により判断する

  2. 雇止めの予告
     使用者は、契約締結時に契約を更新する旨を明示していた有期労働契約(雇入れの日から起算して1年を超えて継続雇用している場合に限る)を更新しない場合には、少なくとも契約期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければなりません。つまり、労働基準法第20条の「解雇予告」に準じた配慮が必要となります。

  3. 雇止めの理由の明示
     使用者は、雇止めの予告後に更新しないこととする理由について労働者が証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければなりません。また、雇止めの後に労働者が請求した場合も同様です。
     理由については「契約期間が終了したため」という理由とは別に、「担当していた業務が終了・中止になったため」「事業縮小のため」などといった具体的な理由を示すことが必要です。


<「解雇濫用法理」の適用>
 期間の定めがある契約で、単に形式上だけの更新を繰り返してきた事案では、「期間の定めのない契約と実質的に異ならない状況で存続していたことになり、期間満了によって雇止めするにあたっては、解雇に関する法理が類推される」と判断された裁判例もあります。つまり、たとえ雇止めであっても、解雇と同じように客観的かつ合理的な理由が必要ということです。更新などの手続が厳格に行なわれていたかどうか、業務内容や契約上の地位が臨時的であるか、などの要素で判断し、合理性がなければ雇止めは認められない可能性もあります。