Q. 介護のために義父の家に立ち寄ってから帰宅する途中で交通事故に合いました。この場合、労災保険の支給対象となるのでしょうか?

A.  労災保険では、労働者が往復の経路を逸脱したり、往復を中断した場合は、その間とその後の往復は「通勤」に含まれないこととなっています。ただし、日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により行う場合は、往復の経路を逸脱し、または往復を中断しても、逸脱・中断の間を除き合理的な経路に戻った後は「通勤途上」とされます。→詳細
 介護のための回り道については、回り道を「通勤途上」と認められなかった男性が労災保険給付の不支給処分の取り消しを求めていた訴訟で、大阪地裁が「(回り道は)近親者に対する介護であり、日常生活上必要な行為を行なうために通勤経路を外れたものと認められる。」とし、不支給処分を取り消す判決を言い渡したという裁判例があります。

























Q. 退職願の撤回は可能なのでしょうか?

A.  この場合、退職願の提出という意思表示が、合意解約(使用者または労働者のいずれかから労働契約の解除の申し出があって、相手方がこれに同意すること)の申し込みなのか、それとも承諾を要しない一方的な告知なのかが問題となります。
 これは内面にある労働者の意思が重要とされ、退職願を受けた使用者の態度に関係なく、労働者本人の退職する意思が固いことが明らかであれば一方的な告知であり、そうでなければ、合意解約の申し込みであると解釈されます。
  • 退職願が合意解約の申し込みであるとした場合
     使用者から承諾する旨の意思表示がなされる前であれば、解約の効力が発生していないため、退職願を撤回することができます。
    (ただし、退職の申し出に対する使用人の権限が実際に会社の誰に与えられているのかが重要であり、権限ある人事部長が退職願を受理したことが、使用者の即時承諾の意思表示になると判断された裁判例もあります。)

  • 退職願が労働者の一方的な告知であるとした場合
     解約の意思表示が使用者に到達した時点で効力が生じますので、使用者の同意がない限り、原則として撤回できません。


 また、退職願の提出が労働者本人の真意ではなく、上司から圧力をかけられてやむなく提出した場合には、その撤回が可能となることがあります。民法第96条1項では、「詐欺又は強迫による意思表示は、これを取り消すことができる」と定めており、これを根拠として、懲戒事由がない労働者に対して「出さなければ懲戒解雇にする」といって退職願を出させたケースや、病気上がりで肉体的・精神的に不安定な状態にあった労働者に対して、長時間にわたり執拗に退職を強要して退職願を提出させたケースなど、強迫行為があったとして退職願が無効となった裁判例もあります。

 また使用者から労働者の自主的な退職を働きかける「退職勧奨」であっても、その程度や方法が社会通念上の相当性を書く場合は不当な退職勧奨(退職強要)となり、退職願が取り消されるだけではなく、勧奨自体が不法行為とみなされ損害賠償の対象(民法第709条)になる可能性もあります。したがって、やむなく退職勧奨を行わなければならない場合には、労働者の人格や自由意志を尊重した十分な配慮が必要となると考えられます。


























Q. メリット制とは?

A.  労働保険の保険料率は、事業の種類により決められていますが、同じ種類の事業であっても、労働災害の防止に努め、災害が少ない事業と災害が多い事業が同じ保険料率であれば不公平となります。そこで、労働保険には、労働災害防止に取り組む事業主の保険料負担の公平性と災害防止努力の促進を目的として、個々の事業における災害防止努力の結果に応じて保険料率を増減させる制度、つまり防災努力を評価する制度があります。これを「メリット制」といいます。

<メリット制のしくみ>
 メリット制とは大きな労働災害を発生させたり労働災害が多発している事業では労働保険率が高くなり、逆に労働災害が少ない事業では労災保険料率が低くなる制度です。
 原則的には、継続事業(一括有期事業を含む)の場合、過去3年間の労災保険のメリットの収支率(納付した保険料額に対して、支給された保険給付額がどのくらいの割合であるかの値)に応じて、その3年間の最終年度の翌々年度の労災保険率をベースとなる率から±40%(建設の事業、立木の伐採の事業は±35%)の範囲で増減するというシステムです。この収支率は、非業務災害(通勤災害や二次健康診断等)に係る額は対象外となっていますので、通勤災害が多く発生しても、保険料率が上がることはありません。

<適用条件>
 メリット制はすべての事業に適応されるわけではなく、継続事業の場合は、事業の継続性と事業の規模に関する以下の用件を同時に満たしている場合に対象となります。

  • 事業の継続性
     連続する三保険年度中の最後の保険年度に属する3月31日現在において、労災保険に係る労働保険の保険関係が成立した後3年以上経過していること。

  • 事業の規模
     連続する三保険年度の各保険年度において、次の1〜3のいずれかを満たしていること。
    1. 常時100人以上の労働者を雇用する事業であること。
    2. 常時20人以上100人未満の労働者を雇用する事業であって、労働者の数に事業に係る基準となる労働保険率から非業務災害に係る率を現じた率を乗じて得た数(災害度係数)が0.4以上の事業であること。
    3. 一括有期事業の場合、確定保険料率の額が100万円以上である事業

<適用決定>
 継続事業でメリット制が適用される場合、労働保険料の年度更新の時期に「労災保険料率決定通知書」が事業主に送付され、適用される年度の概算保険料は、通知された「メリット労災保険料率」に基づいて算出し、申告することとなります

























Q. 育児休業期間中に復職しないで退職することが判明した従業員の取り扱いは?

A.  育児・介護休業法が事業主に育児休業制度の実施義務を課しているのは、労働者が育児のために退職することなく、仕事を続けられるようにするためであり、法の趣旨からすれば、そもそも育児休業を請求する時点で育児休業終了後に職場に復帰する意思がない者は、育児休業を取得できません。
 育児休業中に何らかの理由で職場復帰ができなくなった場合、そのまま育児休業を継続させて、本人の申出どおり、育児休業終了予定日をもって退職とする取り扱いは法律上まったく問題はありません。

 また、育児・介護休業法は、育児休業を適用しないことができる労働者を定めていますので、

  1. 会社が過半数労働組合(ない場合は労働者の過半数代表者)との書面による労使協定で次のa〜dの事項を定めていること
    1. 1年以内に退職することが明らかな労働者を適用除外者としていること
    2. 育児休業の途中で適用除外者に該当した場合は、その時点から育児休業の適用を除外する旨定めていること
    3. 育児休業の途中で適用除外者に該当した労働者の育児休業を終了させる方法
    4. 3により、いったん育児休業を終了させられた労働者が再び適用除外者に該当しなくなったときの再度の育児休業申出の可否

  2. 本人の退職予定日が当初の育児休業の申出日から起算して1年以内であること
以上にに該当すれば、育児休業を途中で終了させて、職場復帰を命ずることも可能です(育児・介護休業法施行規則第8条)。この場合、育児休業はその時点で終了し、職務に復帰しなければならないこととなります。

























Q. 従業員を解雇するのに制限はありますか?

A. <解雇の制限を受ける期間>

労働基準法(第19条)では次のように労働者を解雇することができない期間を定めています。

  1. 労働者が業務上負傷し、又は疫病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間
  2. 女性が労基法に定める産前産後の休業をする期間及びその後30日間
 これらの期間内、解雇に値する合理的な理由があったとしても、その労働者を解雇することはできません。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には、労働基準監督署長の認定を受けて解雇することができます。
 また1の休業について療養開始後3年を経過しても負傷または疾病がなおらない場合においては、使用者は平均賃金の1200日分の「打切補償」を行うことで解雇することが可能となります。


<一定の理由による解雇の禁止>

 基本的人権や労働団結権、男女の雇用機会均等などの理念に基づき、一定の理由による解雇は各法律によって禁止されています。主なものは以下のとおりです。

  1. 労働者の国籍、信条、社会的身分を理由とする賃金、労働時間その他の労働条件の差別的な扱いの禁止(労基法第3条)
    この場合の「その他の労働条件」には、解雇も含まれているとされています。
  2. 行政官庁または労働基準監督官に申告したことを理由とする解雇(労基法第104条、労働安全衛生法第97条)
     労基法や労働安全衛生法などの違反の事実を申告したことを理由として、その労働者を解雇したり賃金などを不利益に扱うことは禁止されています。
  3. 「不当労働行為」となる解雇(労組法第7条)
     労働者が労働組合員であること、労働組合に加入し、もしくはこれを結成しようとしたこと、または労働組合の正当な行為をしたことや労働組合委員会への申し立てをしたことなどを理由とする解雇や不利益扱いは禁止されています。
  4. 労働者が女性であること等を理由とする解雇(均等法第8条)
     労働者が女性であること、女性労働者が婚姻し、妊娠し、出産し、または産前産後の休業をしたことを理由とする解雇は禁止です。(均等法の改正により、2007年4月からは、産前休業を請求したことなどを理由とする解雇も禁止されることになっています。また、解雇以外の不利益扱いも禁止されます)
  5. 育児休業等を理由とする解雇(育児・介護休業法第10条、第16条)
     労働者が育児休業を申し出たこと、または育児休業を取得したことを理由とする解雇やその他の不利益扱いは禁止です。また。これは介護休業についても準用されます。
  6. 個別労働関係紛争の解決援助を求めたことを理由とする解雇(個別労働関係紛争解決促進法第4条)
     労働者が個別的な労使間の紛争に関して都道府県労働局長に援助を求めたことを理由として、その労働者を解雇したり不利益に扱うことは禁止されています。

 これらの理由による解雇だとして労働者が関係機関に解雇の無効を訴えた場合、使用者がその理由で解雇したのではないと主張しても、使用者側の立場にある人の日常の言動や応対などが有力な証拠となることもありますので、解雇には慎重な対応が必要となります。


























Q. 退職した従業員に退職証明書を請求されました。どのような書類を作成すればいいのでしょうか?

A.  労働者が退職した場合に、その労働者から「使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合であっては、その理由を含む。)」について証明書を請求されたときは、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければなりません(労働基準法第22条第1項) これがいわゆる「退職証明書」といわれるものです。様式は自由ですが、労働者が請求しない事項を記入することは禁止されています。(同条第3項)たとえば、解雇された労働者が解雇された事実についてのみ使用者に証明書を請求した場合には、「○○○により解雇」というような解雇の理由を含めての記載はできません。
 退職証明書は、退職した労働者が健康保険に加入する際に退職事実の証明や、再就職先の会社に対して前職における担当業務や地位、賃金などを証明するためにも利用されますので、具体的な事実に基づいて慎重に作成してください。

 また、解雇の予告を受けた労働者から、予告を受けた日から退職の日までの間において、「解雇の理由」について証明書を請求されたときは、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければなりません。(同条第2項)これは「解雇理由証明書」(様式は自由)といわれるもので、退職時や退職した後に交付される退職証明書とは異なり、解雇予告期間に請求があった場合、交付する必要があります。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が解雇以外の理由により退職した場合には、使用者は解雇理由証明書を交付する必要はありません。
 解雇予告は口頭でも差し支えないとされていますが、労働者からの請求による解雇理由の証明は文章によらなければなりません。解雇予告を行なう場合には、証明書の請求がなくても、明確に伝えるために文章で行なう方が確実でしょう。
 また、懲戒による解雇など、就業規則の一定の条項に該当する事実が存在することを理由として解雇する場合には、該当した就業規則の条項の内容と該当するに至った事実関係を証明書に記入する必要があります。


























Q. 休職について詳しく知りたい。

A. 休職とは
 「休職」とは、一般的に使用者が、労働者としての身分を有したまま一定の期間、労働者の就労を免除または禁止することです。休職扱いとなるのは、労働者が業務外の理由で傷病を負ったときや起訴されたときなど、個人的な事情により長期間にわたって就労できない理由が生じた場合が考えられ、また労働者を出向させる場合など、使用者の事情により休職させることもあります。民間企業の労働者については法律上に休職についての規定がないため、休職事由、休職期間の長さ、休職中の賃金や期間満了時の扱いなど、休職制度の内容は企業によって異なり、通常は労働協約や就業規則の定めなどによって制度化されているのが実情です。

傷病休職と解雇
 業務外の傷病による休職(傷病休職)に関しては、休職期間が満了しても傷病が治癒せず復職できないときは自然退職または解雇とする規定がよく見られます。これは個人的な事情での通常の業務に支障が生じ、長期にわたって復職の見込が立たないようでは退職や解雇もやむを得ないという考えに基づいて決められているものであり、また、その期間内に通常通りはたらけれるようになれば復職させるという点では、解雇までの「猶予制度」としての意味もあります。このように、休職制度は企業において労働者の解雇までの道筋としても利用されているため、休職期間満了時の扱いなども巡ってのトラブルも増えてきているようです。

 もしも裁判となった場合、争点として挙げられるのが、傷病休職の場合、復職の要件である「治癒」の判断については、もとの業務に完全に復帰できる状態をいうのか、それとも、もとの業務を軽減したり他の業務に転換したうえで復帰できる状態まで含まれるのか、という点です。原則的な判断として、職種が限定された労働契約である場合は、特定された業務が遂行できないのであれば治癒したとはいえず、傷病休職の期間満了をもって退職または解雇となることは容認できるものとされています。
 ただし、限定された職種以外に配置が可能な部署や業務があり、完全に復帰できるまで、当初は軽易な業務をさせながら徐々に通常の業務を行なわせるなどの配慮を使用者がしなかった場合では、退職扱いが認められなかったというケースもあります。また、職種や職務内容が限定されていなかった労働契約の場合は、労働者が本来の業務の提供が完全にできなくても、その能力、経験、地位、企業の規模、業種、その企業における労働者の配置、異動の実情や難易を考慮して、他の業務へ配置転換が可能であれば、本来の責務を果たせると判断するのが相当であるという旨の最高裁判例があります。これを前提とすれば、本来の業務よりも軽易な業務に転換することの可能性を踏まえて、「治癒」なのかどうかを判断する必要があるといえます。

 最終的な傷病の治癒の判断は、医学的な見地が必要ですから、当然、医師の診断書は尊重されるべきですが、絶対的な基準ではありません。最終的な判断は休職を発令した使用者が行うべきものであり、診断書以外に本人の申し出や上司の意見なども考慮して、労働者の健康状態を正確に把握し、責任ある判断を下すことが使用者には求められます。