Q. 当事業所は所定労働時間が7時間(午前9時始業午後5時終業、休憩1時間)なのですが、事業所内の清掃等の残務的な仕事があります。 社員との協議で午後6時までの1時間については、残業の有無にかかわらず所定労働時間7時間で換算した賃金を基準とした「勤務手当」(定額)を一律支給をし、1日8時間を越えた場合には、その時間分は25%割増の賃金を支給しています。
この場合、午後5時から6時までの1時間に対する「勤務手当」を割増賃金の計算の基礎として含めるのですか?

A.  結論から申し上げますと、上記のような「勤務手当」は「通常の労働時間の賃金」とは認められませんので、割増賃金の計算の基礎には算入しません。

労働基準法において、「使用者が労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」とされています。
さらに、今回の場合のような、いわゆる「法定内残業」(実働8時間になるまでの残業で法定の時間外労働には該当しない残業)として定額支給している「勤務手当」について割増賃金の基礎に含めるかどうかですが、これには下記のような通達があります。

:法定内残業に対して支払われる手当:(要点抜粋)
1、所定労働時間外手当(所定労働時間1日7時間である事業所で所定労働時間を超え、法定労働時間に至るまでの労働時間)に対する賃金として、本給のほかに一定月額の手当を定め個々の労働者が所定労働時間外をするしないにかかわらず、これを支給することは、その手当の金額が不当に低額でない限り差し支えない。
2、前記1の手当は、通常の労働時間の賃金とは認められないから、割増賃金の基礎に算入しなくても差し支えない。

つまり、午後5時終業後、午後6時までの1時間については、法定内残業であって、従業員との協議のうえ、残業の有無にかかわらず、所定労働時間の賃金を基準として一律に支給している「勤務手当」は実態は所定労働時間外の手当であり、「通常の労働時間の賃金」とは認められないので、通達どおり、割増賃金の基礎に算入しなくても差し支えないということです。

なお、労働者との協議後、決定されたこととはいえ、トラブル防止のためには、就業規則への記載、周知徹底がされているかの確認をお勧めします。













Q. 年俸制を適用している事業所で、時間外労働などの割増賃金を含むものとして年俸額を決定すれば、割増賃金の支払いは不要となりますか?

A.  年俸制といっても、割増賃金相当分があらかじめ含まれているという考え方はできません。よって、年俸制適用労働者であっても、時間外・休日労働、深夜労働の割増賃金の支払いが必要となります。
 しかし、割増賃金相当分を含めて年俸額を決定することができないわけではありません。行政解釈は「年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであって、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができ、かつ割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上に支払われている場合は労働基準法第37条に違反しないと解される」(平12.3.8基収第78号)としています。
 割増賃金相当額を含めて年俸額を決めるには、労働契約上、年俸に割増賃金が含まれていることが明らかにされ、年俸のうちいくらが割増賃金相当額になるか明確にされていなければなりません。年俸に割増賃金が含まれていることが就業規則や賃金規定で明記されていても、割増賃金相当額が不明の場合には、年俸に割増賃金が含まれているとは認められず、別途、割増賃金を支払う必要があります。
 年俸に割増賃金が含まれている旨が定められ、年間の割増賃金相当額を各月均等に支払うことにしている場合、各月ごとに支払われる割増賃金相当額が各月の時間外労働時間数に基づいて計算した割増賃金を上回っている限り違法となりません。
 なお、時間外労働多い月、少ない月があって、年間でみれば実際の割増賃金を上回っていたとしても、ある月の時間外労働の割増賃金が割増賃金相当額より多くなっていた場合には、その月には不足分の割増賃金を支払う必要があります。
 年俸額のうち、割増賃金相当額が明確になっていない場合には、年俸に割増賃金を含めているといっても、根拠がありませんので、年俸とは別に時間外労働などの割増賃金を支払わなければなりません。行政解釈は「年俸に割増賃金を含むとしていても、割増賃金相当額がどれほどになるかが不明であるような場合及び労使双方の認識が一致しているとは言い難い場合については、法第37条違反として取り扱うこととする」(平12.3.8基収第78号)としています。

























Q. パートタイム労働者の健康診断は実施する必要がありますか?

A.  パートタイム労働者で次の要件をいずれも満たしている場合、労働安全衛生法の定める健康診断(雇入れ時の健康診断や一年以内ごとに一回の定期診断など)を実施する必要があります。
  1. 期間の定めのない労働契約により雇用されること(期間の定めのある労働契約により雇用される人であって、契約の更新により原則として一年以上雇用されることが予定されている人、および契約の更新により一年以上引き続き雇用されている人を含む。)
  2. 一週間の労働時間が、当該事業場において、同種の業務に従事する通常の労働者の所定労働時間数の4分の3以上であること。
 なお、一週間の労働時間数が4分の3未満であっても、前記の1の要件に該当し、通常の労働者の所定労働時間数の概ね2分の1以上であるパートタイム労働者に対しても一般健康診断を実施することが望ましい、とされています。

























Q. 規律違反があった従業員を減給しようと考えていますが、何か注意する点はありますか?

A.  労働基準法では、制裁による減給の制限を定めています。
 制裁による減給とは、職場規律違反に対する制裁として、その労働者が本来受けるべき賃金の中から一定額を差し引くことです。過怠金や罰金なども実質的な減給となりますが、遅刻や早退、欠勤に対して、その時間に相当する賃金を差し引くことは、労働の未提出に対する賃金の計算方法ですので、減給ではありません。ただし遅刻、早退等の時間に対する賃金額を超えて減額することはその越えた部分については制裁による減給とみなされます。

就業規則等で減給を定める場合、減給できる額については、以下のような一定の制限があります。

  1. 減給は、一定の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはなりません。「一回の額」とは、制裁処分の対象となる行為一件について減給する額のことです。例えば、平均賃金の一日分が10,000円の労働者に対する制裁の減給は、一回につき5,000円が限度となります。
  2. 一回の減給額が前記の範囲内であっても、一賃金支払期に減給の対象となる行為が複数ある場合、その減給の総額は一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えることはできません。

























Q. 給与が出来高払制の場合の注意点はありますか?

A.  月給制や日給制と異なり、出来高払制その他請負制は、仕事の繁閑によって賃金額が大きく変動する可能性があります。そこで労働基準法では、労働者が就労した以上は、その出来高が少ない場合であっても、労働時間に応じて一定の賃金を保障することが義務付けています。
 保障給が必要なのは、出来高払制の労働者が実際就労したにもかかわらず、使用者の責により待機時間が生じたり、出来高が減少したりして実質収入が減った場合です。同じ「使用者の責」による場合であっても、労働者を休業させたときに支給する「休業手当」とはこの点において異なります。
 保障給の額は具体的に定められていませんが、その趣旨は労働者に最低水準の生活を保障することですので、少なくとも平均賃金の60%程度を保障する必要があるとみられています。

























Q. 通勤途中に交通事故で怪我をしましたが、これは労災保険の給付の対象になりますか?

A.  業務中や通勤途中での交通事故は労災保険の給付の対象となります。こうした事業主や被災労働者以外の第三者(加害者)による行為で生じた業務災害や通勤災害を「第三者行為災害」といいます。
 第三者行為災害は、労災保険に対して保険給付を請求することができますが、交通事故の場合は、同一の理由で加害者に民法上の損害賠償を請求したり、自動車損害賠償責任保険(自賠責)等に損害賠償を請求することができます。このような加害者等に対する損害賠償の内容と労災保険の保険給付の内容には、療養費や休業補償など、まったく同じ性質のものもあり、被災者は実際の損害以上に補償を受けるという不合理な結果が生じてしまいますので、労災保険では次のような方法で損害賠償との調整を行っています。ただし、労災保険の保険給付は、物的損害や精神的損害に対しては支給されないため、損害賠償のうち物的損害や精神的損害は調整の対象とはなりません。
  1. 保険給付の控除(損害賠償が先に行われた場合)
     業務中や通勤途中の交通事故の場合、自賠責保険の損害賠償と労災保険の保険給付とでは、通常は自賠責保険を先行します。被災者(または遺族)が労災保険の保険給付を受ける前に同一の理由によって損害賠償を受けているときは、労災保険は、損害賠償額の限度で保険給付を行わないこととなっています。つまり、保険給付の対象となる損害賠償額が所定の保険給付の額より多いときには、保険給付は支給されません。

  2. 求償(保険給付が先に行われた場合)
     損害賠償よりも先に労災保険の給付が行われた場合には、その価額の限度で、被災者の有する損害賠償の請求権を保険者である政府が代わって取得し、第三者に対してその損害賠償請求権を行使することとなります。これを「求償」といいます。

























Q. 雇用保険の特定受給資格者とは何ですか?

A.  特定受給資格者とは、解雇や倒産などによって離職を余儀なくされ、離職後に失業給付を受ける資格をある人のことです。再就職の準備をする時間的余裕なく離職するので、一般の受給資格者(自分の意思で離職した人など)よりも所定給付日数が多くなる場合があり、三ヶ月間の支給停止期間もありません。
 また、直接に解雇を言い渡されていなくても、事業主側の都合によって離職しなくてはならない状況となり、結果的にやむを得ず離職したとハローワーク側が判断すれば、特定受給資格者に認定されます。具体的には次のような離職理由が判断基準となります。
  1. 事業所で大規模な人員整理があった
  2. 事業所が移転し、通勤が困難になった
  3. 労働条件が事実と著しく異なった
  4. 賃金の3分の1を超える額が支払期日に支払われない日が2ヶ月以上続いた
  5. 賃金が85%未満に低下した(予見できた場合を除く)
  6. 基準以上の時間外労働が行われ、行政機関から指摘を受けたにもかかわらず、必要な措置が講じられなかった
  7. 職種転換等に際して、職業生活の継続のための配慮を受けなかった
  8. 期間の定めにある労働契約の更新により三年以上引き続き雇用されている場合で、希望しているのにその労働契約の更新がされなかった
  9. 上司・同僚から嫌がらせなどを受けた
  10. 退職勧奨を受けた
  11. 事業主都合の休業が3か月以上となった
  12. 事業所の業務が法令に違反した
 特定受給資格者に該当するかどうかを正確に判断するため、離職証明書(離職票)には、事業主が申し出た離職理由について、離職者本人が異議申し立てを記載することができるようになっています。したがって、事業主が「自己都合」と認めた場合でも、離職者の申し出によって事実が確認されると、特定受給資格者であると認定されることもあります。
 事業主に支給される新規雇い入れ型の助成金等について、一定期間のうちに事業主都合による解雇者が一人でもいる場合には不支給となりますが、一定期間のうちに三人を超え、かつ全保険者の6%を超える割合で特定受給資格者である離職者を発生させた事業主に対しても不支給となりますのでご注意ください。

























Q. 裁量労働制を導入したい。

A.  裁量労働制は、性質上、遂行の手段や時間配分を労働者の裁量に委ねる必要があるとされる業務を行う場合に、あらかじめ労使協定で定めた時間を労働したとみなすことができる制度です。例えば「1日8時間」と定めれば、それを超えた時間働いた場合でも、8時間の労働をしたものとして取り扱うことができるようになります。
 労働基準法に規定されている裁量労働制には、一定の専門的業務のみを対象とした「専門業務型裁量制」と、事業の企画・立案などの業務に従事する労働者を対象とした「企画業務型裁量労働制」の二つのタイプがあります。

<専門業務型裁量制>

 専門業務型裁量労働制の対象となるのは次の19の業種です。

  1. 新商品、新技術の研究開発又は人文科学、自然科学に関する研究の業務
  2. 情報処理システムの分析又は設計の業務
  3. 新聞、出版の事業における記事の取材、編集の業務又は放送番組の制作のための取材、編集の業務
  4. 新たなデザインの考案の業務(衣服、室内装飾、工業製品、広告等)
  5. 放送番組、映画等の製作におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  6. コピーライターの業務
  7. システムコンサルタントの業務
  8. インテリアコーディネーターの業務
  9. ゲーム用ソフトウェアの創作業務
  10. 証券アナリストの業務
  11. 金融工学の知識を用いて行う金融商品の開発業務
  12. 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務
  13. 会計士の業務
  14. 弁護士の業務
  15. 建築士の業務
  16. 不動産鑑定士の業務
  17. 弁理士の業務
  18. 税理士の業務
  19. 中小企業診断士の業務
 以上の業務については一日の「みなし労働時間」、労働者の健康確保や苦情処理に関する措置などを協定し、それを所轄の労働基準監督署に届け出ることにより、この制度を実施することができます。


<企画業務型裁量労働制>

 企画業務型裁量労働制は、事業の運営上重要な決定が行われる事業場において、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析業務で、業務の遂行手段や時間配分を自らの裁量で決定し、使用者から具体的な指示を受けないものを対象とします。したがって、経営企画を担当する部署であっても、庶務やオペレーターなど具体的な指示を受けて行われている業務は対象となりません。
 この制度を導入するためには、事業場に労使それぞれの代表者で構成される労使委員会を設置し、委員の5分の4以上の多数決により次の事項について決議したうえで、それを労働の動労基準監督署長に届け出る必要があります。

  1. 対象業務
  2. 対象労働者の範囲
  3. みなし労働時間
  4. 対象労働者の労働時間の状況に応じた健康・福祉の確保措置
  5. 対象労働者からの苦情処理に関する措置
  6. 対象労働者の同意、及び同意しなかった労働者に対する不利取り扱いの禁止
  7. 決議の有効期間
  8. 実施状況にかかる労働者ごとの記録を有効期間中及びその満了後3年間保存すること、その他決議事項
 また、決議が行われてから6か月以内に1回、実施状況などの定期報告も必要となります。

























Q. フレックスタイム制を導入したい。

A.  フレックスタイム制とは、一日の終業時刻と終業時刻を個々の労働者が決定できる制度です。導入には、まず、就業規則その他これに順ずるものに「始業・終業時刻の決定を労働者に委ねる」旨を定める必要があります。
 この他に以下の項目について労使協定を締結しておかねばなりません。
  1. 対象となる労働者の範囲
  2. 労働時間を生産する一ヶ月以内の期間(清算期間)
  3. 清算期間中の総労働時間(所定労働時間の総枠)
  4. 標準となる一日の労働時間
  5. コアタイム(労働者が労働しなければならない時間帯)を設ける場合は、その開始と終了の時刻
  6. フレキシブルタイム(労働者がその選択により労働することができる時間帯)を設ける場合はその開始と終了の時刻
 なお、協定は労働基準監督署長に届け出る必要はありませんが、常時10人以上を使用する事業場であれば、就業規則変更の届出が必要となります。

 フレックスタイム制を導入すれば、労働時間は協定の定める1ヶ月以内の清算期間単位で行われ、原則1週間40時間、1日8時間という労働時間規制は解除されますが、清算期間内の所定労働時間の合計は、法定労働時間の総枠の範囲内で決める必要があります。つまり清算労働時間を平均した際に、1週間あたり40時間(労働基準法40条に基づく特例事業場は44時間)を超えることはできません。
 また、実際に働いた時間が清算期間内の法定労働時間の総枠を超えた場合は、その超えた分が時間外労働となり、割増賃金の対象となります。逆に、実際の労働時間が清算期間内の所定労働時間の総枠に不足した場合は、その時間分の賃金をカットすることができます。例えば、清算期間内の所定労働時間を160時間とした場合で150時間しか働かなかったときは、不足した10時間分の賃金をカットします。不足分の賃金をカットせず、不足時間を次の生産期間の所定労働時間を次の清算期間の所定労働時間の総枠に加算すること(いわゆる「繰り越し」)もできますが、この場合の加算後の所定労働時間は、法定労働時間の総枠を超えることはできません。

 また、「標準となる一日の労働時間」とは、清算期間内における総所定労働時間を、その期間における所定労働日数で割ったものです。フレックスタイム制の適用を受けている労働者が有給休暇を取得したときには、その取得した日数については、標準となる労働時間を労働したものとして取り扱います。